1.本県養豚の動向
(1)平成19年2月1日現在の県内豚飼養状況は、飼養戸数82戸、頭数78,400頭で対前年比は戸数94.3%、頭数90.7%となり、戸数で5戸減、頭数では8,000頭の減となった。また、1戸当り平均飼養頭数は956頭となり前年比96.3%となった。(2)平成18年次の県内養豚農家の豚出荷頭数は145,403頭で、昨年次より3,226頭の減少となった。また県内豚と畜頭数676,993頭となり県内出荷豚との割合は21.5%であった。
(3)平成17年度における豚肉の県内自給率(県内総消費量167.9千トンに占める県内生産量11.4千トン)は6.8%で前年比1%減となった。
2.診断農家成績の分析概要
平成18年度における養豚部門の経営診断指導対象は、畜産経営技術高度化促進事業では経営診断改善指導対象5戸、その他事業対象4戸の中から総合的な分析に必要な数値が把握できた1戸を加えた6事例について行った。成績は表1、表2、表3のとおりであるが、平成18年度に改訂のあった本県畜産経営指標(養豚)に照らしながら経営成績の概要を述べる。
(1)経営の概況
●6事例とも繁殖・肥育一貫経営であり、耕種部門との複合経営は1戸のみで、他はすべて養豚専業経営である。●経営組織としては1例が家族経営(青色)であり、他の5例は法人経営である。
●労働人員1人当り母豚飼養頭数は全6例の平均で54.5頭であった。
(2)繁殖成績
●繁殖候補豚の確保
●種雄豚の確保と人工授精の活用
種雄豚については、優良遺伝子の導入、母豚の自場更新を補う血液更新の意味からも外部導入が積極的に行われている。雄豚一頭当りの母豚数は平均18.9頭(10.7〜41.8頭)で、これは自然交配(以下NS)か人工授精(以下AI)かによって異なる。
AIを活用しているのは6事例中5事例であるが、利用方法は自家採取での100%AIまたはNS+AIから購入精液によるAIまたはNS+AIなど様々である。AI活用農場での雄豚保有頭数は14.9〜41.8頭の雌豚に対して1頭とやや多い経営もあるが、F1生産のための純粋雄豚(L・W)を抱えていることや、一部購入精液によるAI等があることにも関係していると思われる。
●1腹当りの生存子豚、離乳子豚頭数と育成率
1腹当り生存子豚頭数は平均10.6頭(9.8〜11.7頭)で平均値は指標値10.6頭となったものの各経営で指標値をクリアーできたのは6事例中2例となっている。生存産子数が10頭を下回った事例は2例あり、指標よりも0.7〜0.8頭少なく、こうした生存産子数の少ない事例では分娩時の死産や虚弱等の損耗率が高い他、交配適期のずれによる受胎数(総産子数)の低下があり、日常の発情チェックや夏場の精液チェックなど季節ごとに応じた交配妊娠管理が課題となっている。
1腹当り離乳子豚頭数の平均は9.4頭(9.2〜9.6頭)でばらつきは少なかったものの、指標より0.4頭下回り、指標値をクリアーした事例はなかった。
離乳子豚数は生存子豚数や育成率などによって大きく変動する。正常な飼育管理下における1腹当りの産子数は、母豚の品種構成や遺伝的資質によるところが大きく、これに交配時の発情状況(交配適期)と交配精液性状などが総合されたものであるため、人為的に増やすことは難しく、離乳子豚の増頭策としては分娩施設面の見直し、分娩・哺乳時の衛生対策や母豚及び子豚の栄養管理の改善による育成率の向上を目指す方が容易であろう。
育成率は平均88.7%となり、81.3%〜95.3%とばらつきがあった。平均で90%に達しない事例が4例あり、こうした経営では哺乳豚管理の見直しが必要。特に哺乳中子豚事故で1腹当り1頭以上を損耗している事例(表-1)については、哺乳子豚管理の見直しや改善が必要である。
●離乳日令と分娩回転数
6事例の平均離乳日令は25.8日で昨年度平均より1.4日の増となり、各農場の日令範囲は22.5日〜29.0日と較差がある。6事例中3例で平均27日以上と4週離乳に近づける経営も出てきているが、比較的規模の小さい経営で腹ごとの哺乳日数のばらつきも多い。
分娩回転数の平均は2.21回転で、指標値2.3回転をクリアーできた事例は2例しかなく、最低値2.00〜最高値2.40と大きな較差はあったものの、夏場の種付けに苦慮したNo.6と哺乳日数のバラツキが多かったNo.4の他は比較的良好な成績であった。
●更新率
6例の種雌豚更新率平均は39.8%となり指標値で示す値になったものの、疾病問題で更新を抑えるNo.2の事例や、導入計画が適正でなく数年低い更新率となってしまっているNo.4の事例もある一方で、出荷豚の肉質改善を目標に更新率50%以上の高い経営もあった。
更新に際しては年間を通じて毎月安定した分娩数が得られるように計画的に行うことが望ましく、また、淘汰・更新は固体ごとの繁殖成績記録によって的確に行い、母豚群の平均産次を4〜5産にすることが望ましい。
(3)肥育成績
●母豚1頭当り出荷頭数
●事故率
事故率の平均は7.8%で指標の3%以下とは大きな隔たりがある。前年度平均より1.2%の減となったが、ここ数年は高い値となっている。農場間較差は2.0%〜20.5%と大きな格差があり、特にNo.2の20.5%は昨年に引き続きPRRS関連による事故となっている。
指標値の3%以下を達成した農場は1事例あった。8%以上が6事例中2例という結果になった。
近年、PRRSやPED等の新しい病気や、ヘモフィルス、パスツレラ等の慢性呼吸器疾病も広く浸潤している中で事故率3%以下という指標は、高いハードルとなっているが、4%以下レベルにまで到達するよう努力が望まれる。
●肉豚・枝肉の出荷
本年度の平均出荷生体重は112.8kgで前年平均と比べ1.3kg下回った。平均枝肉重量も74.0kgで前年平均と比べ0.9kg下回った。
●飼料要求率
本成績の農場飼料要求率の積算は、農場内での飼料給与総量を肉豚出荷生体量と候補豚頭数(110kgと推定)の合計体重で除したものであり、活豚出荷、棚卸体重の増減を見ていない。
農場飼料要求率は平均で3.44(3.26〜3.66)で、指標値の3.4をクリアーしているものは2例であった。農場要求率には事故率が大きく影響し、特に肥育中期以後の事故が大きく関与するので事故内容を把握した損耗防止対策が必要である。
●豚舎面積と密飼いの影響
豚舎面積と飼養密度の評価については、全体面積の大小よりも、ステージ別・用途別の豚房のアンバランスによることが多く、密飼いの多くは特に離乳豚房、肥育豚房の不足による例が多い。慢性呼吸器病による事故率の上昇原因として密飼いが主要な原因として重視されているが、頭数に合せた施設の改善か、施設規模に合せた飼養頭数の調節により事故率の低減を図って欲しい。
(4)収益・経済性分析
●種豚1頭当り生産物売上高
4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
454 | 477 | 573 | 544 | 507 | 488 | 402 | 447 | 482 | 416 | 445 | 480 |
●種豚1頭当り利益
種雌豚1頭当りの当期利益の平均は10,465円となり前年平均9,309円と比べ1,156円のプラスとなった。
●種雌豚当り所得
6事例の種雌豚1頭当り所得平均は67,692円(45,308円〜112,506円)であった。指標値の10万円以上の所得があったところは1事例であった。所得は当期利益に役員報酬又は家族労賃を加えたもので、役員報酬(家族労賃)の高低が大きく関係している。
3.指導の方向と対策
事例の繁殖・肥育に関する成績を通してみると、良好な経済成果をあげている例もあるが、1母豚当り年間出荷頭数・出荷枝肉量が少ない事例もあり、これが最終的に売上高、収益性を抑えている。その要因は多岐にわたるが、主に改善しなければならない項目としては生産子豚頭数(交配適期の把握・夏場の暑熱対策)、分娩回転数(発情再起、再発・空胎豚の早期発見)、事故率(哺乳・育成・肥育の全期を通じての損耗防止)である。
(1)繁殖性向上対策
●受胎率の向上
●分娩率の向上
折角の妊娠も分娩まで至らなければ大きな損失になる。妊娠豚の栄養・飼養管理を十分に注意し、母豚移動などに伴う物理的事故原因の排除、日本脳炎やパルボの予防処置等、流・早・死産をさせないよう心掛け妊娠豚を無事分娩させたい。
●分娩回転数と離乳日令
分娩回転数は、離乳日数と受胎までの日数によって決まるが、近年になって離乳日令を延長する経営が見られ、本年度の対象農家でも6事例中3例の経営で4週離乳に近い離乳日令となっている。
本年度平均分娩回転数は2.21回とやや低い値となった。計算では2.4回転の場合でも離乳日数27日、妊娠期間114日として、離乳後受胎まで7日の余裕がある。実際の経営では更新豚の繰入れ時期と淘汰までの間隔により異なるので、一概にはいえないが、2.4回転は決して高い目標ではない。
その他、種付け後の再発チェックを徹底し空胎豚は早期に発見し再交配もしくは繁殖障害などで働けない母豚を早期に出荷していくことも全体の年間分娩回転を増やしていくことになる。
●育成率の向上
種雌豚1頭当りの生産性を上げるには、育成率の向上と安定が欠かせない。育成率向上の要点は、哺乳子豚の飼養・衛生管理で、本事例中の哺乳子豚事故内容として虚弱と圧死によるものが多く、虚弱に関しては妊娠豚の適切な栄養管理を行い、なるべく虚弱子豚を出さないよう心掛ける。また、圧死に関しては分娩房の構造や子豚の居住環境、母豚の性質・泌乳能力など幾つかの要因が考えられるので、原因の究明と対策が必要である。近年、コンサルタント事例でも育成率の低下による出荷頭数減少の経営が目立つ。なお、(社)中央畜産会が集計している養豚事例調査では全国平均の育成率はここ数年91%で推移しており、神奈川の事例平均は88%程度と約3%程度低い数値となっている。今後、育成率向上は指導の重点項目としたい。
(2)肥育成績向上対策
●種雌豚当り出荷頭数の増頭と事故率の低下
●出荷豚(肉質)評価の向上
肉豚評価を左右する主な要因は概ね3つに大別される。
@素豚(遺伝的要因)
A飼養技術(飼料の質・栄養水準と給与方法、豚群の編成等)
B出荷技術(出荷日令・体重・出荷先選定)
最も基本的な要因は@の遺伝的資質であるが、これは母豚群の品種・系統構成によるもので長期にわたるデータに基づく選抜が基本で短期的な改良は難しい。
飼料の質と給与方法については、素豚の資質にあった栄養レベルの飼料により適度な発育の早さ(出荷日令と体重)で高い上物率が得られるよう飼料の選択と給与をする。
同時離乳腹数の多い大型経営ではできるだけ同質、近似日令の豚群編成に心掛け、雄雌別群として豚群の資質と発育ステージにあった段階的飼料栄養水準飼料の給与(フェイズフィーディイング)を行う。
肉豚出荷に対しての個体チェックは不可欠であり、個体計量はその基本である。個体標識により、個体経歴から枝肉評価まで一連のデータとしてその結果が次の交配や選抜・淘汰にフィードバックできるシステム化が望ましい。
(3)畜産環境対策
家畜排泄物は、これまで畜産業における資源として農産物や飼料作物の生産に有効に利用されてきた。しかしながら、近年、畜産経営の大規模化の進行、高齢化に伴う農作業省力化等を背景として家畜排泄物の資源としての利用が困難になりつつある一方、地域の生活環境に関する問題も生じている。
●悪臭対策
畜舎内の臭気は舎内にある糞尿の量に左右され、畜舎内の基本的な臭気対策は糞尿の早期搬出の励行である。また、周辺の住宅事情等によっては周囲から苦情の出る前に消臭剤・脱臭剤の利用など、先手を打った行動が極めて重要である。
●堆肥の流通促進
有機農産物需要の増大を背景に家畜糞の需要が高まっており、地域を越えた広域流通化の機運にある。
これに応えて、供給できる堆肥の質量・販売条件などを堆肥流通情報として畜産会ホームページ上で広報しているので、良質堆肥の生産と流通の情報化への積極的協力を願いたい。また最近、耕畜連携という言葉が誌面上でも良く見かけるようになった。今後、畜産サイドも堆肥づくりだけでなく、いかに利用者側の意見や希望を吸収し製品を提供できるかが課題になる。まずは生産した堆肥の成分程度は知っておく必要があるだろう。
(4)食肉の販売取り組み
●安全性・信頼性をアピールできる県産豚肉の生産・販売