この講演要旨は、平成14年3月28日に伊勢原市市民文化会館において県内優良事例発表会の際に畜産セミナーとして、神奈川県養豚協会理事長 志澤 勝氏に講演頂いた内容です。


畜 産 経 営 と 販 売

(社)神奈川県養豚協会理事長 (有)ブライトピック代表取締役 志 澤   勝

 私は神奈川で養豚を始めて35〜36年になります。その間幸せだったと思うのは、1からの出発で良い指導を受けられたり、また、行政の応援があったり、併せて良い仲間と良い社員に恵まれたことがあって、現在4,200頭ほどの一貫経営を確立できました。色々な方とのお付き合いの中でそれなりに経営も順調に推移してきました。その中で特に神奈川県の農政部関係の方々には、先見的に都市の中の神奈川農業をしっかりと構築していただいております。私は色々なところでお話を聞き、お話をさせていただきますが、神奈川では30年も前から環境問題について都市の畜産として位置付けができております。このことに特に感謝申し上げたいと思います。

1.食品の安全について

 日本の自動車関係ではトヨタとホンダしか純粋な日本の資本というのはありません。今から2年ほど前、日産がリバイバルプランを発表する前に、日本の残れる企業として何があるだろう、弱電と自動車であろうということでした。たしか12ほど日本の自動車メーカーがありましたが、それらが切磋琢磨して、純粋に日本の自動車会社として残ったのはトヨタとホンダだけでした。日産が非常に今利益が出てきていること、これはリストラと斬新なイノベーションによるものです。純粋な日本の資本が2社になってしまったことは残念に思いますが、今アメリカのビッグ3さえも非常に厳しい状況になってきているということで再編が行われています。わが畜産も昨年農水省の畜産局がなくなりまして、畜産部になりました。トヨタ自動車の総生産額が10兆4千億、日本の農業生産額が全体で9兆7千億です。トヨタに匹敵するほどの日本の農業ですが、その中に畜産の占める割合は2兆7千億で約3分の1弱です。その中で搾乳と肥育牛で約1兆円、豚が5千億ということです。日本の農業を大きく揺るがす大きな問題として、昨年9月アメリカの同時多発テロの後にBSEがあり、非常にその後冷え込んでおります。今日の新聞にも載っていましたけれども2千億円近くがBSE対策費として出ています。そのことから養豚に対しての予算は非常に厳しい状況になってきています。ただ私もBSEの対策問題検討委員の1人となっておりますので過去4回ほど検討会議が開かれた中で、「早く牛に立ち直ってもらわなければ日本の畜産がおかしくなる。ひいては日本の農業全体がおかしくなるだろう。」と申しております。農畜産事業団の評価委員もやっていますが、日本の補助金は国が直接出さずに畜産予算のほとんどが農畜産事業団を通して出ています。その中で何とか養豚の予算を削らないでほしいとお話しました。たまたまBSEがらみで、豚価が昨年9月10月、11月と本来であれば基金が発動される時期に高値でありましたが、前年度予算を削られるようなことがあっては困るのだとお話しましたところ、「豚だけのことを考えてはだめだ。日本の畜産の危機なので今回は牛に集中するんだ。このために少し我慢をしてもらわないとだめだ。」というお話がありました。その後、表示の問題。この問題については過去2・3年前からJAS法の強化をしてほしい、同時に国内の志向を高めるために何としても農水もそういう位置付けをしてほしいと要請して、先ず、国表示をということが去年の4月からなされたわけですが、この国表示がなされたことによって、豚肉であれば韓国産であるあるいはUSであると表示され、それを見ることによって、消費者が応援してくれます。日本の消費者というのは顔が見えるとか汗をかいた人を応援するということ。これはドイツなどと似ておりますが、汗をかいて仕事をした人が自ら売っているというものには非常に共感を持って応援してくれます。そのようなことでJAS法というのは非常に追い風であると思っておりましたが、BSE以来、雪印の表示問題、その後だんだんと出てきて、つい最近では一番信頼している生協グループにもありました。この問題で先日農水省畜産部の方々にこの偽表示を起こしている要因というものをもっとしっかり国民に伝えなければならないだろうとお話しました。これはご承知のように、リストラをされた人たちが次々に、会社に恨みがあるかどうかは分かりませんが、うちの会社はこうだと告発しているということです。生産者は非常にまじめに取り組んでおります。農協の例でもそうですが生産者は指導に従った生産体制をとって供給しているわけですが、そこの先からがどうも表示違反になっていたようです。早くこの部分を払拭しないと全体的に信頼がなくなるだろうということで、4月4日に生産者、パッカー、大手量販店、消費者を集めて、マスコミにアピールしました。生産者が一所懸命物を作っているけれども、その流通過程で、例えば白豚で出したものが黒豚になって流れている。これはパッカーが大手量販店の要求に応えて、断ればよいものを断らないで出している影響であったわけです。BSEで牛肉が売れない、そのために豚肉や鶏を持って来いといわれると、断れなかった結果なのです。このことは多くの消費者の皆さんに分かってもらわなければ困ることです。このことをアピールしようとしています。
 私は養豚家ですので豚の話に偏りますが、豚を飼っているということよりも、豚肉を作っているのだという意識を生産者が持てるか持てないかというだと思います。特に食肉の安全という問題については消費者の方々は非常によく勉強されてきていますし、それに応えうる生産体制を確立していかなければならないと思っております。多くの養豚家は最近農場HACCP、特に注射針ですとか飼料安全法の問題についてはかなり前向きに取り組みはじめておりますが、まだまだ豚肉を作っているという意識は少ないのではないかと思います。畜産全体で考えますと、搾乳についてはやはり搾りたての牛乳を飲みたいという感情は強いと思います。その点で乳業メーカーがどういう形で取り組むか。搾乳というのは、老廃牛の処理という問題はありますが、ある意味で政府保証付きの価格があるので良いだろうと思います。そして卵も産みたてを食べたいという願望は非常に強いものです。昨年9月にシンガポールに行きましたが、和食が食べたくなって、生卵があるかと聞いたところ「あります」と言って、持ってきたものを「これは日本の卵だ。」と言いました。青森の卵でしたが、価格が高く1個100円ほど取られました。「これはサルモネラがフリーです。」と言う説明を受けました。そういった意味では生卵は日本の食文化の中で重要です。神奈川の養鶏家は販売をうまくやっておられると思います。牛乳や卵は搾りたてや生みたてを食べたいということです。豚肉については潰したてを食べたいということはなかなか難しいので、また潰してから1週間くらいが一番うまいわけですから、そういった点でハンデがあります。それからもう一つこれは私が造った豚ですと、あるいは神奈川県で生産された豚と明示できない点があります。色が変わっていれば別ですが、例えばアメリカから来たもの韓国から来たものにしてもまったく肉には変わりがない。ジューシーさであるとか鮮度あるいはうまみなどの区別がありません。肉格協の格付け委員会にもよく行きますが、その時に、できれば日本の格付けは2002年になったら是非「おいしい」という豚肉の格付けをしてほしいと言っています。「おいしい」という格付けができないものではないだろう、その項目を入れてもらったらずいぶん違うだろうという要請をして、今一所懸命研究をしているようですが、このようなことができれば豚肉も非常に有利になろうと思います。それらが為されるまで豚肉販売については厳しい状況が続きそうです。加えて韓国が昨年の暮れに口蹄疫、今年になってから豚コレラがフリーということで、済州島を経由して日本に豚肉が入ってくることがOKになります。たぶんワールドカップの前に韓国全土から日本に豚肉の供給が多くなるのだろうと懸念はしております。

2.21世紀の日本の養豚

 そのような背景の中で日本の養豚家がもう1万戸を切ってきております。30年前と比べると30分の1以下になっています。30年前には35万戸くらいであったと思うのですが、今1万戸を切りまして、これから7千戸になるのは早いのではないかと思います。環境問題のリミットが16年の10月に迫っておりますが、神奈川では環境問題について、牛については多少あるのでしょうが、あまり心配されてはおりません。例えば千葉県では640くらい養豚家があるのですけれども、まだ二法をクリアする対策が20パーセントくらいの養豚家でしか行われておりません。その他の人たちはどうするのかというと、まだ様子見をしているとしているということなのですが、多分野積、素掘りがほとんどで、大きな問題になっています。先日沖縄に行きましたところ、沖縄でも対策は20パーセントしかできておりません。北海道と沖縄は開発庁担当で、農林省が直接ではありませんので、予算はいっぱいあるようですが、技術や指導が行き届いていない部分があってなかなか環境問題対策は進んでいないようです。おしなべて見ますと、豚だけを見るとまだ日本全国で60パーセントいっていないようです。あと2年しかないわけですが、この後厳しくなってくれば養豚をやめてしまうという方が多いようです。そうすると7千戸になるのは早いであろうということで、それで止まるかどうか。先ほど申し上げたように、豚については、なかなか絞りたてを乳業メーカーが持っていってくれる、あるいは産み立てをそのまま売れるというものではなく、食肉センターを通さなければ商品が売れないという問題があります。私は1万戸の養豚家が何とか残れるようにするためにはどうしたらよいかと考えるのですが、環境問題だけでも減少は早いのではないかと思います。そうした場合、日本の市場はどうなるかというと、この間の台湾の口蹄疫騒ぎのときも台湾から入っていた市場の45パーセントを占める豚肉が止まったときに、価格が高いのは1ヶ月半だけでした。後はアメリカやカナダにシフトするという状況、今はメキシコにもシフトしておりますが、そういう点では、日本の養豚家が少なくなった場合価格が高くなるのではなく、かえって輸入攻勢があって非常に危険であると思っております。
 22年の農林省の新しい農業の中で、自給率を73パーセントにするということでした。12キロ近くの1人当りの消費量を10キロほどにして、生産を落とさないで自給率を73パーセントにするというマジックみたいでいい加減な話もありますが、これは食品リサイクル法などを含めて無駄をなくすことで少しでも自給率を上げるのだと豚肉については言っております。屠畜場法の改正についてはまだ発表になっておりませんが、例えば茨城県では現在屠畜場が12ありますが、屠畜場法をクリアできるのは3箇所くらいしかありません。生産者は自分たちの豚が送られている食肉センターはどうなっているのかよく確認したほうがよいということで、センターに確認しますと「やります。」という答えがあります。「やります。」といっても、屠畜場法の改正に添った形にできるかというと、できていない。どういうことかというと労働対策上、「やります。」という話をしておいて、その後許可にならなくなったときに「整備ができませんからやめます。」という形が労働対策上いいわけです。そのような再編が行われますと、遠くに豚を持って行かなければならない、家畜を持って行かなければならないということで運賃がかかりますので、それも経営の阻害要因になるだろうと思います。補助事業は環境対策を含めて新規の予算がほとんど切られているようですので、残っているのは2分の1リースです。これは牛関係の皆さんがBSE問題で設備投資を控えようということで余っているようですので、今のうちにこれを使って整備しておくのも良いだろうと思います。16年度以降はこの予算は一切出さないということですので、今のうちです。
 大手のバイヤーさんが生産現場を見たいといってきています。それは、生産現場で本当に黒豚や3元交配であるのか、餌はどういうものを使っているのか見たいということと、もう一つは、バックヤードである環境対策ができているかということを見ています。これは、継続的なお付き合いができるかどうか重要です。良い物が1、2年で終わってしまっては困るので、製品開発を含めて、16年以降も継続的に行われるような設備であるか、またそのような施策を生産農場が執っているであろうかということを見たいというのが大きな要素です。大手の量販店もそういったことを見極めて取引をして行きたいと考えているようです。ですから今のうちに我々畜産農家あるいは行政関係も早く手を打つべきではないかと思います。

4.WTO

 もう一つ大きな阻害要因としてはWTOの問題があります。畜安法の関係については先日決定して、豚肉、牛肉については前年と同じということで、この問題については一安心しています。

年度10111213
輸入基準価格460.01450.02440.06429.71419.79409.9409.9
税率4.94.84.74.54.44.34.3
安定基準価格400.390.385.380.370.365.365.
安定基金発動価格400.400.400.400.400.400.400.

 差額関税制度について、平成7年に差額関税制度を維持してくれということで養豚危機突破大会を行いました。この時に輸入基準価格が460.01円だったのですが、これが毎年下げられるというウルグアイラウンドの決定で12年には409.9円になりました。13年もこれと同じ、14年も同じで行くと思いますけれども、今年の後半か来年に決着することです。そのままですと税率が4.3パーセントで入ってきているわけです。ハム・ソーセージメーカーはこの差額関税をぜひ堅持してくれということです。生産者はどうするのだというと畜産部部長は「生産者の意見を統一して下さい。」と、そして「日本の養豚が自給率を維持するためのコンセンサスをとって下さい。」ということで色々と活動しておりまして、今日の話題の中にも置いたわけです。韓国は通常関税で15パーセントです。日本の輸入基準価格というのは、460円の時はこれを下回ると関税率を引き上げましたが、現在は409円、税率が4.3パーセントですので17円の税金を払えば輸入できるのです。安定基準価格には上限と下限がありまして、下限が365円ということで、365円を割ったときには事業団の買い上げが発令されます。安定基準価格を生産コストで考えますと、365円プラス20円か25円が環境三法をクリアするのに必要なコストであろうと思います。385円から390円が日本のコストであろうと思います。この差額関税の考え方は、必要な分だけ持ってくればいいという利便性があります。こういう形のものが今年も続けられる予定ですが、輸入基準価格をWTOではもっと下げなさい、30円から50円下げなさいという話が出ているようです。4.3パーセントの差額関税を維持していった場合現在よりもっと安い価格で入ってくることになります。これと戦わなければならないというのは大変なことですので、できれば通常関税にした方がよいのではないかということを運動の一部として始めています。皆さんはどのようにお考えでしょうか。ハム・ソーセージメーカーとすれば4.3パーセントの税率だけ払えば欲しいものが欲しいだけ入ってくる。スソ物まで付き合わなくてもよいということになっております。もう一つ、安定基金発動価格というのは、地域肉豚事業として400円を切った場合、皆さんが積んだ部分と国が積んだ部分で構成された基金から補填されるというものです。この基準価格を下げるという話もあります。果たして、これ以降豚価が下がっていった場合に50億という僅かな金額がたちまち底を付くであろうと心配しています。この3つの要素がどういう形で我々養豚経営に影響するかということを経営者としてしっかり見極めなければならないだろうと思います。
 為替の問題については、一時的に為替は強くなってまた弱くなって、現在133円前後で推移しています。ユーロが出てきたことで、ドル圏においてドル一辺倒で取引されるよりも相互の力関係がありますので、日本としては面白いものであろうと思います。

5.私の養豚経営の戦略

 次に私の養豚経営の戦略ということで話させていただきます。私は養豚をゼロから出発しましたが、当時は曾我さんの影響で、アメリカ養豚の規模拡大であるとか、スノコ方式などを手がけて生産しようということを指導いただきまして、清川の種豚センターで始めて、それからどんどんアメリカの技術を導入して、規模拡大ができました。先日横浜の畜産表彰式があったときに、ある方から「志澤さんはどうして規模拡大できたのですか。」と聞かれました。そう聞かれて振り返ったときに、どうして1頭から初めて4,000頭の一貫経営になれたかなと考えました。これには先ほど申し上げたように、丁寧なご指導をいただいた事、あるいは良い友達がいたことはもちろんですが、一番は社員が良かったということでしょう。最初は大規模経営というよりは繁殖豚の多頭飼育経営をしようということでした。綾瀬では比留川養豚さんという優秀な方がおられまして、無看護分娩豚舎などができていました。こういう先人の刺激を受けまして、規模拡大をして借金を抱えました。128万円の餌代が払えなくて「もうあなたの名前では餌は売れません。」と言われました。これは23歳のときでしたが、系統農協から餌を止められました。それでどうしたものかと考えて残飯集めをしました。最盛期には横浜の西口から厚木まで72キロを毎日取りに行ったものです。その時に成人病センターの方から「志澤さん、入札にすれば残飯が簡単に手に入るから。入札にしてあげるから。」と言われて、1ヶ月7,000円の金額にしてもらいました。ただし、毎日正月も来るという条件でした。「もう少しないものか」と聞きましたところ、ユーカリ園という施設を紹介いだだきました。そこに通ううちに、秋の運動会に招待され大変感動しました。当日梨を2箱持っていったのですが、手の不自由な子供が足で書いた「おじさんありがとう。」という手紙をもらいました。もう一度訪問したときに、どうしてユーカリ園という名前にしたのか聞きましたところ、「ユーカリの木というのは、誰も手を差し伸べなくても一人で伸びて行ける。その意味を込めて名前をつけた。」とお聞きしました。当時借金もあって気持ちも多少腐っていたときに、この施設を訪問して我々健常者もこれ位の借金で挫折してはいかんと思ったものです。その後1年くらいで借金もなくなりましたが、その時に頑張っていてくれた社員が1人いました。44年45年当時3ちゃん農業といわれ、農家に嫁さんが来ないというということもありました。そのことからもっと夢のあることをしたいという思いと、曾我さんの経営を見て、同じ豚飼いなら同じように大型トラックで豚を運んでみたいものだという夢を抱きながら、社員とともに、健常で努力すれば何とかなるだろうと規模拡大を始めました。それで52年に「神奈川畜産」という会社を作りました。その当時、これから多分神奈川の養豚は面ではなく点になるだろうと考えました。点になったときにお互いにトータルメリットを考えたときに、餌や機材の共同購入、また社員を同じように募集できるようになれば良いだろうということでつくったものが「神奈川畜産」で、構成する8社は現在も後継者がいて頑張っています。
 私は、数字を大切に考えています。なぜ数字が大切かというと、私は販売も行っていますが、「高座豚手造りハム」を始めたときには、農協の組合長以下、仲間も「こんなことをやっても失敗するよ。」ということでした。ハムのハの字も分からない中で、都市化の中で養豚というものは嫌われるけれども、少しでも地域貢献と併せて養豚場があるというだけではなく、本物を食べていただくことで少しでも喜びを感じてもらうことをして行かなければならないという思いがありました。「本物作りに徹しよう。」、「県央の名産品を作ろう」、「都市畜産のバックグラウンドを作ろう」という3つの目標を設けました。この3つが理念でありました。これ等を掲げて販売を始めましたが、販売というものは言うほど易くないものでした。当時手作りハムというものが少しは盛んになりつつある頃でしたので、本物を作れば売れるだろうと思っていましたが、保存料無添加に近い状態で賞味期限が短いことから量販店やレストランに卸したものが返品になり、それは再販できないものです。そういった難しさが分からなかったものです。良い物を作れば売れるであろうと思っていました。もう一つ、工場直売もしていましたが、工場直売の場合は安く売っていました。デパートに卸すときには、手数料が3割、ひどいところは4割取られますので、当然値上げします。工場で売る場合とデパートで売る場合の売価が違う問題でもトラブルがありました。ここで分かったことは、中間業者、販売をしてくれるところが儲かるものは売れるということです。良い物を作って高いものを売ろうとすると利益が少ないもので、それを売ってもらうのに手数料を4割も取られているのです。良いものがより高くなって売れないわけです。
 我々もそうですが消費者の買い物行動というのは、店に入って目的の商品がある場合は直接いきますが、何にしようと迷っている場合、顔が違う方を向いていても足が向かっていればその商品を買うものです。その時にどう声を掛けるかということは非常に難しいことなのですけれども、ハムを作って18年になりますがようやく最近分かってきました。私は社員に、お客様に物を売る場合、「おいしい」ですとか「新鮮ですよ」などとは絶対に言うなと言っています。何を言うかというと「こんなおいしい豚を作るためにこんなに苦労している」ということ、「もの」を売るのではなく「こと」を売ることを社員に言っております。2つ直売店がありまして、おかげさまで年間3億近くハム・ソーセージが売れていますが、店舗ではその部分を徹底させています。それからお客様の名前を覚えること、部位の説明ができること、またレシピを教えることができることが大事です。お客様が買い物をされるときは「今日のおかずを何にしようか」という方が7割だそうです。目的を持って買い物にきている方は3割だけですので、7割の方にレシピをおしえられれば良いということです。私のところで一番売れているヤークトブルストというのは1,600円で400グラムくらいあります。やはりおいしいのは切ってから2日くらいです。「家族が少ないので半分くらいで良い。」とお客様に言われまして、それでは半分を作って売ったらどうかと社員に言ったところ、「それではコストがかかる。」ということでした。それに対しては、お客様が求められるものをどう作るか大事であろう、それでなければお客様に失礼であろうということで、お客様に合わせろと次第にシフトいています。お客様の満足度を高めるということが非常に大事なことです。ギフトの場合必ず葉書を入れて、お使いいただいた感想をアンケートしています。アンケートをいただいた場合必ず職員が手書きでお礼を送るようにしています。このことは非常に好評です。そのような売り方が必要なことが手作りハムの販売を始めて分かりました。生産農場の社員にも販売をさせますが、先ほど申し上げた、豚を飼っているのではなく豚肉を作っているという意識があれば、当然お客様のご忠告に対しても反応できると思います。また自分たちのプライドを持つことも大事です。
 49:51という数字があります。これは成功する可能性が51あったらやってしまおうということです。「手造りハム」のときも51でした。私どもは今農場が7つほどありますが、それぞれに枝振りの良い木を残してあります。それぞれの場長にハンコを渡して貯金通帳を作って、売り上げ管理をさせます。1,000頭で7億5千万くらいの売り上げになりますが、場長のハンコがなければお金が一切動かないシステムにしてあります。なぜかというと、そこまで信用して、作業の責任委譲に止まらず、経営の責任委譲までしておくことが大事だと思います。そこでもし失敗して倒産したら2人で首を吊れるだけの枝振りの良い木を残しておこうということで、それが一つのシンボルとなっています。51パーセントであったらものをやる。いまだに60くらいでやっておりますので非常にリスクが大きいものです。リスクが大きいほうが社員も役員も一丸となってものができるだろうというのが私の一つの哲学になっています。

6.合理化の3原則と5S

 合理化の3原則として、標準化、単純化、専門化とありますが、それぞれの経営体でこのことが徹底されているかということは非常に大切なことです。例えば、出荷についても、週2回であればその出荷の2日に合わせて他の作業計画が立てられるということを徹底してやっています。標準化については、誰が種付けしても年間の分娩率を85〜90パーセントするためにはどう確立するかということです。いかに標準化するかということは大手企業では皆やっていることですが、養豚家もこれを徹底しなければならないということです。  私たちの農場では、例えば分娩率が90パーセントになったら、褒賞金として3万円出すなどの褒賞金制度を採っています。衛生費や飼料の量、金額等はそれぞれの農場で分かるようにしています。農場がそれぞれ一つの経営体であるということで、農場間でこのような数字の競争をさせています。これは大事なことですが、それぞれの農場で、餌の受払いから要求率まで出せるようにしています。経営には売りと買いがありますが、飼料というものは買いの中で売り上げの40パーセントくらいを占めるものです。その中でも人工乳とくにスターター以前のものが適切に切り替えられているかということが大事です。決算をして餌代が高いという場合、果たしてステージごとにきちんと餌が切り替わっていたかどうか、そのことは1母豚当たりの標準の使用量を決めておいて、その標準使用量より少なかった場合早めに切り替えていたということですので、この切り替えが正しく行われているかということを生産現場で毎月検証すること大事であろうと、農場ごとに毎月数字を出しています。1頭の母豚に対する飼料費を農場の職員それぞれが分かるようにしたいことです。次に売りに関する記録については、毎日農場で生体格付けをして、枝でどうなってきたかということ、そのときの重量と枝肉歩留りがあります。そして、東京、横浜、大宮の3市場について運賃、手数料などを引いた価格を生体重で割り、3市場の単価で割ったものが3市庭先歩留りというものです。私どもは60パーセントの手取り金額歩留まりが尺度になっております。それと比較してどうかということ、どこにどう売ったらどのくらいのプラスになるかということで、同じ上物でも、やや薄めの上物はどこに出した方が手取り金額が多いかということが分かります。経営者というのは、仕入れに対してはいくら餌が安いか、薬品がいくら安いか敏感ですが、最後の売りに関しては、どこにどういう売り方にしたら良いのかというのは、社長が考えるよりも直接豚を出している社員がチェックできれば大きく違うことになると思います。よく取引価格が上物よりも20円高で売っていますなどといいますが、運賃や手数料などを差し引いて振り込まれた金額を生体重1キロ当りいくらだったかとしますと、全国の数字と比較できますので、これは大事な数字であると思っています。
 養豚場の毎日の作業には慣れが出てきます。鉄道員が電車の行った後指差し確認をしていますが、これは大事なことで、農場でも1週間に1回作業状況を農場長がチェックするようにしています。これがファックスで送られてきてきます。いつも可もなく不可もなく3をつけてくる場長もいます。いつも3であったらどうして5にしないのかこのような検討が重要であると考えています。

7.世界との競争について

 世界との競争ということでは、先ほど牛乳や卵、豚について色々と申し上げましたが、例えば、牛乳については県域が関東圏になりましたが、私はこれから1人で40くらい飼うのが標準になってくるのではないか、そして年間9,000リットルくらい出せる酪農経営かどうかということが条件になってくると思います。色々と経済界を見ていますと上位3割というのはどんな時代でも残ります。今養豚家が1万戸あって、3千戸は残るであろう、更に3千戸になったときにこの中の3割は残るであろうということが掟であろうと思います。この3割に残るために、牛であったら1頭当り9,000リットル、1人で40頭管理できること、そして売り上げが3千万位というのが目安かと思います。もう一つはクオリティ、乳質の良いものを作ること。例えば総細菌数が1万以下というものが求められてくると思います。卵については1羽当り16.5キロくらい年間生産できて、農場コストが120円くらいに収まっているかどうかが目安だろうと思います。要求率は養鶏ですと2.4くらいが標準であろうと思います。豚ですと1母豚当たり23頭の年間出荷というものが目標になろうかと思います。そして350円の農場コストにできるかということ。色々な会議に出させていただいて、大手のバイヤーに話を聞きますと、350円でコンスタントに同質の豚が入るのであれば、アメリカに行って豚を買わなくてもよいということです。先ほど申し上げた為替の問題もありますが、この350円が一つのボーダーラインになるのだと思います。3部門ではこれ等がベンチマークになるのではないかと思います。
 私ども神奈川県の養豚家として、食肉センターができることで非常に喜んでいる部分と、一方では都市に向かってよい豚肉が集まってくるということ。先ほどお話した食肉センターができなくなる話で、当然ここに集まってくるということがあります。そうしますと神奈川の豚は今まで高くて売り手市場であったものが、集まってきたものの中から一番良さそうなものを買参人が買うということで、集荷業者が汗をかかなくなる。そうすると当然それに対して相場が落ちてくるだろうということです。千葉に4屠場くらいが集合してHACCPクリアしたよい屠場ができました。これが5年前でしたが、その前まではかなり相場が良かったものです。例えば庭先歩留まりでいうと61くらいいっていました。それが今は57や56です。簡単に言うと1頭当り2千円くらい落ちています。それは色々なところから荷が集まってきて、その地域の人たちに叩かれはじめたということを体験しています。屠場が全くできなかったらもっと大変なこのなのですけれども、神奈川もそうなる可能性が高いと思います。そのためにも神奈川ブランドを統一して作って、今頑張っている後継者を将来の養豚家としても生き残れるようするためにも新しいブランドをつくって、新しい屠場で顔の見える販売をする必要があると考えています。これには系統造成を長年携わっておられますが、このかながわヨークと神奈川ランドを土台としたもので、DNA鑑定でもきちんと位置付けできるものを作って、そして認定委員会で認定したものを量販店に販売するということで、当面3万頭を目標に販売の準備をしています。これも一朝一夕に行かないもので、このデフレの時代にものを高く売るというのは難しいことですが、何とか30円高で売れないものだろうかと考えています。30円高といっても、餌が10円高くなります。通常の餌にサツマイモを5パーセント、足柄茶を0.3パーセント入れたものを系統造成した豚に食べさせながら認定委員会に認定されたものを販売します。出荷した全体の6割が認定を受けたブランドになるだろうと思いますので、概ね5万頭を作ってそのうちの3万頭がブランドになります。餌が10円高、生産者が10円、1頭700円くらいになります。そして流通業者にPR代をこちらから出してゆこうと考えています。こうして売価の確保をしてゆけば皆さんにも夢があるであろうと思います。



【事業所】

(株)神奈川畜産
 昭和51年神奈川県内7市町村の養豚家8戸が集まり設立。
 飼料、家畜診療業務、薬剤、生産資材購入、コンサルタントの実施を生かし経営の合理化、コストの低減を図っている。
 所在地:神奈川県綾瀬市吉岡2321 0467-77-2413
 スタッフ:5名 グループ70名

(農)高座豚手造りハム
 昭和60年、神奈川畜産所属養豚家8戸が、「まごころを食卓へ、グルメ志向や健康志向に対応した本物の味」をもっとうに取り組んでいる。
 所在地:神奈川県綾瀬市吉岡2366-8 0467-76-8611(ハムイイ)
 スタッフ:15名
 直営店:藤沢店 神奈川県藤沢市亀井野1-2-2 0466-82-1186(イイハム)

(有)ブライトピック
 本社農場 神奈川県綾瀬市吉岡2321 母豚150頭
  消費者が見学できる農場 スタッフ:4名
 第一農場 千葉県香取郡山田町桐谷 母豚700頭 肉豚6,000頭
  リキッドフィーディング スタッフ:9名
 第二農場 千葉県香取郡山田町新里 母豚650頭
  スタッフ:8名

(有)ブライトピック千葉
 飯岡農場 千葉県海上郡飯岡町 母豚1,100頭 スタッフ:9名
 東圧農場 千葉県香取郡東圧町 母豚1,300頭 スタッフ:5名
 銚子農場 千葉県銚子市    肉豚6,000頭 スタッフ:3名

(有)神奈川中央畜産
 神奈川県愛甲郡清川村煤ヶ谷  母豚250頭 スタッフ:4名

ELEPHANT ROCK CAFE  とうふレストラン
 GOLD COAST Q.L.D AUSTRALIA
スタッフ:5名